KDDI―スマホって楽しいよ、使い方発信「おせっかい部」、神出鬼没でお助け(2017/02/14 )

 料理や踊りの講習会などにオレンジのシャツを着たKDDIの社員が現れたら、それは「auおせっかい部」の部員だ。スマートフォン(スマホ)の楽しさを伝えるために各地に出向く。「部活って何?」「契約させられるのでは」。2014年11月の発足以来、多くの誤解を地道な活動で解き、社内外に認められる存在になってきた。

 「スマホの契約書は持ってきてないんですが、スマホのことは何でも聞いてください!」


何でも聞いて!


 旅行会社が企画する皇居の散歩会に参加していた人たちは、現れたKDDIの伊藤裕美さん(28)のあっけらかんとした姿にあぜんとした。

 スニーカーにオレンジのポロシャツを身につけた伊藤さんはおせっかい部の一員だ。スマホを売るわけでもなく、歩数計があって消費カロリーが見られることや無線通信を使ってスピーカーで音楽が楽しめることを熱心に説明する。「スマホって楽しいんですよ」

 着替えは早く、声は大きく。高校の部活のようなのりだ。おせっかい部の部長を務める木村奈津子さん(49)は「みんながみんなのことを大好きで、部の活動も好きなんです」と語る。それほどの愛と情熱で時にずうずうしく、時に静かにスマホの使い方を伝える。

 おせっかい部はカスタマーサービス企画部長の木村さんと、部下だった総務・人事本部の新井洋将さん(37)が音頭を取って発足した。正式な組織ではなく、総勢60人ほどいるカスタマーサービス企画部の気の合うメンバーが有志で集った。部員は木村さんや新井さんを含めて5人。

 当時、携帯大手3社は米アップルの「iPhone」を競うように扱い、料金プランや機種が横並びになっていた。3社のサービスの「同質化」が指摘され、消費者には「auだから」という違いが分かりにくくなっていた。

 KDDIには有料でスマホの使い方を伝えるサービス「auスマートサポート」があったが、顧客の要望があったら応える仕組み。スマホを積極的に使いたい熱心な利用者から、使い方が分からずに何となく機種変更でスマホを持つ人が増え始めていた。木村さんは「『もっとお客さんのところに出向きたい』との思いがふつふつと沸いていた」と話す。

 「待つサポートから出向いて顔が見えるサポートをしたい」と話す木村さんに、新井さんは「それこそおせっかいじゃないですか」と切り替えした。「それだ!」

 当初は「正式な組織なの?」「何をやるの?」と戸惑う声があった。木村さんが幹部を説得し、「カスタマーサポートは顔の見える活動が必要だ」とゴーサインが出た。

 最初は活動を理解してもらうだけで四苦八苦した。伊藤さんと新井さんが「auのおせっかい部ですが……」と様々な教室に電話をかけると、売り込みと思われて電話を即座に切られた。

 栗城希さん(27)は「皆さんがお金を払って習い事に来ているところにお邪魔しておせっかいをするので、冷たい視線も多かった」と振り返る。

社内外に認知


 新井さんは「イベントでの経験を重ね、自分たちで情報を発信して理解してもらおう」と決めた。社員の紹介を通じてコーヒーの講習会や皇居の散歩会に参加し、活動の報告をブログなどを使ってインターネット上で情報発信を始めた。

 彼谷祐介さん(28)は「情報発信ではそれぞれのキャラクターを立たせて覚えてもらうようにした」と言う。彼谷さんなら「チャームポイントは指」とし、ギター教室やスマホだけでできるDJプレーが得意だと書き込んでいる。

 栗城氏さんはちょっと天然のキャラだ。部員たちは「きれいにスマホにフィルムを貼る方法」などをテーマにし、動画で配信し始めた。

 テレビなども活動を取り上げるようになり、木村さんは「『KDDIってこんなこともやっていいんだ』という会社の度量の大きさを社員が共有できるようになった」と語る。今や社内の「応援部員」は約80人にのぼり、消費者を集めた催しなどでおせっかい部を手伝う。

 最近はおせっかいを焼かれた一般の利用者にアプリの新しい使い方を教えてもらう「おせっかい返し」も増えている。おせっかいをする自分たちのことが好きな部員たちは、今日もどこかでだれかにおせっかいを焼いている。