KDDI(au)は今秋、独特のデザインで知られるオリジナルの携帯電話端末「INFOBAR(インフォバー)」の新作を発売する。ガラケーからスマートフォン(スマホ)への移行で他社との差別化が難しくなるなか、開発メンバーを突き動かしたのは、auならではの新作端末を待つファンの熱意だった。
1位「初代インフォバー(ガラケー)」2位「2代目インフォバー(ガラケー)」――。KDDIが2017年3月に行った歴代ケータイの人気投票ランキングの結果だ。歴代の約700機種中、7万5000人による投票で1、2位をインフォバーが独占した。それだけauブランドを代表する象徴的な商品だといえる。
初代インフォバーは03年に登場。当時は折り畳み式ケータイが主流だったが、薄型・棒状の斬新なデザインで話題を呼んだ。赤を基調色にボタンに白や水色をアトランダムに配置したカラフルさが代名詞で、07年に2代目が発売された。11年以降、スマホとしても4機種が出たが、特にガラケー時代のファンの支持は根強く、今なお大切に使い続けている人も多いという。
そんなファンの熱量を可視化する取り組みを担当したのが、宣伝部の西原由哲さん(43)だ。17年7月にはインフォバーなど歴代機種のデザインを振り返る展覧会を開催すると、4000人のファンが詰めかけた。
「ガラケーの後継機が出ないから、いつまでも乗り換えられない」「スマホを使っているけど、もう一度インフォバーを使いたい」。ファンたちの「インフォバー熱」を肌で感じ、同年秋にガラケーとしての「復活」を決めた。
最も人気だった時代のデザインを踏襲すると決めたものの、新型を出すからには中身まで全く同じというわけにはいかない。プロダクト設計を担当した課長補佐の美田惇平さん(32)は「懐かしくも新しさを感じられるようにした」と話す。
新機能としては高速通信規格「4G」に対応したほか、無料対話アプリ「LINE」や「Gmail」のアプリを標準搭載。一方で、電話としての持ちやすさを重視した縦14センチメートル×横4~5センチメートルほどの従来のサイズ感を維持するため、赤外線通信やワンセグなどの機能は省いた。新型インフォバーでは主にスマホやタブレットと併用する「2台目」としての利用を見込む。インターネットや動画、アプリはスマホで、電話や簡単なメールはガラケーのインフォバーで、といった具合だ。
もちろん、インフォバーを知らない若者世代の購入も想定。03年の初代から開発プロジェクトを率いる砂原哲さん(47)は「一定数の若者はSNS(交流サイト)依存に疲れている」と指摘する。携帯電話としての基本的な機能に絞り込んだガラケーは「スマホしか知らない世代にとって、逆に新鮮に映るのではないか」と考えた。
インフォバーの全盛期はガラケー時代だ。砂原さんは「07年の『iPhone』の登場で潮目が変わった」と振り返る。スマホでは全面タッチパネルの米アップルや韓国サムスン電子などグローバルメーカーの製品が台頭。携帯キャリア間で端末のデザインによる差別化が難しくなったからだ。
かつては「そのケータイ、どこの?」と聞かれれば、その答えは「au」や「ドコモ」だった。それが今では「アップル」や「サムスン」だ。「大多数の人が端末にこだわりがないのは事実。それでも一部のファンを通じてauの取り組みが伝わればいい」(砂原さん)。インフォバーによる「楽しい」「先進的」といったauブランドのイメージ再構築に期待が高まった。
グループリーダーの松木恵さん(40)は社内の営業部門やマーケティング部門などとの調整役を担った。社内にもインフォバーを知らない世代がいるなか、オリジナル端末の意義を説明。「何台売れるのか」「なぜもう一度出すのか」といった声も出たが、数字だけでは説明できない根強いニーズを訴えた。「ワクワクを提案し続ける会社」をスローガンに掲げるKDDIにとって、「インフォバーは、持つだけでワクワクを提案できる数少ない携帯電話の1つだ」(松木さん)。
もともとは、曖昧だったauのブランドイメージの向上を狙って開発されたインフォバー。初代の登場から15年が経過し、時代がガラケーからスマホに変わってもただ一つの端末を愛し続けるファンの熱量は、契約者数といった数字だけでは表せないauの財産となり、開発メンバーを動かす力になっている。